英文学者で、翻訳家の柳瀬尚紀氏の逝去(平成28年7月30日)の報に接した。
翻訳不能といわれたジェイムズ・ジョイス「フィネガンス・ウェイク」の訳者、柳瀬尚紀氏は、泣く子も黙る将棋の達人であった。
将棋フアンにとっては、「対局する言葉 羽生vsジョイス」や将棋観戦記などでよく知られた方であった。
数ある著作の中で、標題の「日本語は天才である」(新潮文庫)は将棋という誘引力をちりばめながら、日本語を語る出色の一冊である(私にとって)。
本欄でも2013・9・20の「七段、七冠、7六歩」というタイトルで当該本の一部を紹介している。
とにかく、本章はともかく、まえがき、あとがき、解説(ドイツ文学者の池内紀)にいたるまで将棋の話しが記載されているのには驚かされる。
今となっては、柳瀬氏がどのくらい将棋が強かったのか、プロとの対戦棋譜が見たかったが(故・山口瞳「血涙十番勝負」みたいなもの)どうやら存在しないようだ。
将棋界としても、よき理解者を失った。衷心よりご冥福をお祈りしたい。