ストンリバーの日記

「詰将棋パラダイス」同人作家が語る将棋一般ブログ

七段、七冠、7六歩

 英文学者で翻訳家でもある柳瀬尚紀氏の著作に「日本語は天才である」という著書(新潮文庫)がある。
この方は羽生三冠とも対談などをしたこともあり、かなりの将棋通の方でもある。

 この本のある章に「シチ派 vs ナナ派 真昼の決闘」と題して、ナナと読むかシチと読むかのサブタイトルで論じておられる。まず、作者は「七」の読み方にこだわりがあることを宣言する。


どう呼ぶか「七段」
 将棋竜王戦の衛星中継でアナウンサーがナナダンを繰り返し耳障りだったことがある。これはシチダンが正しい。シチよりはナナの方が発音しやすいのでナナと言ってしまうのは、一般人なら許されよう。また、ナナの発音を気にしないプロ棋士もいる。しかしアナウンサーは発音が本業だ。ナナでは困るのだ。

 ちなみに野月浩貴七段は「NHKの記録係をしていたころ、七段はシチダンと読むのが正しくきれいだと習いました」と柳瀬さんの質問に答えている。

 

よかったのか「七冠王」の読み方
 羽生さんが将棋界の7つのタイトルを独占したあの出来事。すでに、六冠の時点で、「七冠王」の活字が新聞や雑誌に躍っていた。そして耳に聞こえてくる音は、ナナカンオウばかり。それが達成されて全国でナナカンオウの大合唱となった。

 七冠・・・冠をカムリ、もしくはカンムリと読むのなら、ナナカンムリであり、冠をカンと読むなら、シチカンであると作者はこだわるのである。すなわち、次に和語・和訓がくる場合はナナとなり、漢語・字音がくる場合はシチとなると説く。


棋譜の読み方「7六歩」
 作者はこの棋譜の読み方については論じていないことをまずことわっておきたい。私が序でに考えたことである。我々、将棋を趣味とする者は81マスの駒の動きを表す際に各自微妙に違う読み方をしているかもしれない。
「7六歩」はナナロクフと呼ぶ方がほとんどであろう。それが大勢だ。なんとなれば、NHKテレビ将棋の棋譜読み上げを聞いていると一目瞭然だ。先手が初手に角道をあける「ナナロクフ」が自然に飛び込んでくるからだ。
 読み方が違う可能性があるのは他に例えば4と9だ。前者は「シ」と「ヨン」があり、後者は「ク」と「キュウ」がある。ここで、我々が子どもころ、九九を声に出して覚えようとしたはずだ。2×4=8  2×9=18 は「ニシガハチ」、「ニクジュウハチ」と覚えた方がほとんどだと思う。この九九と棋譜の読み方は明らかに違う面がある。もし、日本将棋連盟棋譜数字の読み方のマニュアルがあるとしたら、一度拝見したいものである。


最後に 
 この本はひょっとしら将棋のほんかしらと思えるほど、将棋の引用があり論理的になりがちな日本語講座を易しく説いている。「詰め将棋」という言葉を嫌い、「詰将棋」にこだわってきた私にとって、まさに目から鱗の類いの内容である。ワンコインでおつりがくる文庫なら安いものである。