ストンリバーの日記

「詰将棋パラダイス」同人作家が語る将棋一般ブログ

これぞインタビュアーの仕事

大川慎太郎『不屈の棋士』(講談社現代新書が話題になっている。
先月末、書店に行ったらなかったが、数日前にやっと手に入った。
後付けを見ると第2刷発行とあったので、多分好調な売れ行きなのだろう。


 コンピューター将棋ソフトが進化を遂げ続けている現在、プロ棋士はいま何を考え、どう行動しようとしているのかをテーマに棋士へのインタビュー記事である。
 羽生に聞く。渡辺に聞く。Comに詳しい勝又やら西尾やら千田に聞く。Comと闘った山崎や村山にも聞く。その他、トッププロ棋士に聞くといった総勢11人からの証言集である。
 すべてに読みごたえがあった。なかでも私にとっては千田五段と村山七段であった。特に、千田五段には昨年11月号のNHK将棋講座の「決意と覚悟の自戦記」(対阿久津八段)には驚きとともに極めて印象的な自戦記として、記憶に新しいので実に興味深く読んだ。


 インタビュウ項目も各人に共通のものが複数あったがその中の一つをまとめてみるとこうなる。

Q:2015年10月に情報処理学会が「トップ棋士との対戦は実現していないが、ソフトは事実上トップ棋士に追いついた」と宣言しました。これにはどういう感想を持っていますか?

羽生:統計的なデータに基づいていると思うので、そういう宣言があってもおかしくないと思っています。「将棋倶楽部24」のレーテイングでソフトがとんでもない数字を出したんですよね。

勝又:仕方ないですね。私の中では三浦ーGPS将棋戦でソフトが人間を超えたと思っているので。これからは人間がコンピュータに挑戦するシリーズになるのでは?そうなっても世間には受け入れられると思いますけど。

西尾:いや、とくにどうも思わなかったです。ああ、宣言したんだな、というくらいで。強く肯定することもないし、向こうがそう判断したんだな、と。「違う」と主張する材料があれば反発するんですけど、特にないので。

森内:電王戦の結果だけでなくレーテイングなども見て判断されているのでしょうから、そういう見方もあるのは当然だと思います。またそれに対抗して「まだ抜かれていない」と主張することも可能だと思います。

糸谷:実はコンピューター将棋という試み自体が、情報処理の観点からは重要視されなくなっている分野なんです。だから人間を超えた時点で、続ける意味はあまりないでしょう。そもそも人間に近いレベルのソフトを作れればそれでいいという判断なのかもしれません。

行方:そうなんですか、知らなかったです。別に熱くなることもないですし、それはそれですね。自分がいま見ているものや目指しているものとは全然関係ないので。


 この本の中で1点、残念なことは振り飛車党の棋士が登場していないことである。この本を読んでみたいと思ったことの一つが<プロ棋士が陸続と振り飛車を敬遠している理由がひょっとしたらつかめるかも知れない>と思ったからだ。
 振り飛車御三家(久保・藤井・鈴木)からどうだったのだろう。藤井九段はソフトを使わないらしいから、対談に発展性がないかもしれないが、少なくと第3回電王戦で闘った菅井七段は適任者ではなかろうか。Comは振り飛車戦をどうみているのだろうか?自らが最近、振り飛車を指さなくなったのはどういう理由からなのか?彼に聞いてもらいたかったことは山ほどある。本人が登場を拒否したということであれば、詮無いことではあるが・・・


 Comの進化が早いので、5年先と云わず3年先でもComとプロ棋士の世界は変わり続けるかも知れない。
しかし、現状を認識するということではこの新書は良き水先案内となるであろう。