ストンリバーの日記

「詰将棋パラダイス」同人作家が語る将棋一般ブログ

×××の永瀬化

 標題の永瀬とは永瀬拓矢六段のことである。
彼が若くしてデビユーしたときは実に新鮮な郷愁を覚えたものである。
ノーマル振り飛車でねばっこく指し回し、まるで大山名人の再来かと思わせられた。
しかし、あの頃の彼はもういない。
忽然と居飛車の世界へ転向してしまったからだ。
棋聖戦挑戦者に至るその後の活躍をなんとも複雑な思い(やはり振り飛車では天下は取れないのかと)で見ている。



 ここに数冊の将棋の単行本がある。菅井ノート・後手編(2012・9)、同先手編(2013・1)、同実戦編(2013・11)である。発行順に並べたが後手編が先にあるのは、振り飛車は後手番で採用することが多いからだ。
 ゴキゲン中飛車における新趣向、石田流における斬新な指し回し、相振り飛車における菅井定跡など、その創意と工夫を凝らした内容には思わず目を見張ったものだ。今にして思えば、将棋ペンクラブの技術部門で何らかの賞を受賞しても良かったのではないかとさえ思われる。


 この創見にみちた振り飛車案内書を私は折に触れて、読み、並べ、味わってきている。
菅井竜也七段自身も研究の成果を実戦で試し、勝局棋譜として結果を残しながら、活躍していた時期が確かにあった。
 しかし、今はどうだろう。直近の10局に振り飛車が一つもなく、その事実に愕然とした。
これを<菅井の永瀬化>と云わずして、なんといおうか。


 振り飛車の灯を消してはいけない。そうなれば、アマチュアの将棋フアンがごそっと?減るかもしれない。
私は久保九段と藤井九段が現役で頑張っている限りは将棋フアンを辞めないが、あとを追う中心となる棋士戸辺誠七段だけではなんとも寂しいかぎりである。
 久保九段の竜王戦挑戦者への目が消えたいま、私は沈痛の面持ちで本欄を記載している。