ストンリバーの日記

「詰将棋パラダイス」同人作家が語る将棋一般ブログ

捌きより、粘りのアーティスト、秋の風

 最近はタイトル戦が戦型上、魅力のない将棋(私にとって)が多くて興味の主眼はたっぷり時間をとって戦う順位戦にある。
 王座戦第1局が始まった9月2日は折りしも、B2順位戦の対局日だった。全13局のうち、半数以上が振り飛車戦となり、王座戦ニコニコ動画を開いていたものの、順位戦の各戦いぶりの方が気になって仕方がありませんでした。
 特に、印象に残ったのは菅井六段(vs高橋九段)の先手5筋位どり中飛車穴熊、北浜八段(vs島九段)の後手5筋位どり中飛車穴熊(対居飛穴)、それに鈴木八段(vs中田八段)のいきなり向かい飛車(双方が馬作りの力戦)などでした。


さて、9月4日はA級順位戦において、連敗スタートの久保九段(vs深浦八段)が登場しました。後手番の久保九段が採った作戦はごきげん中飛車。中盤の攻防までは少し振り飛車側が苦しいのではとみていました。しかしながら、粘り強い指し回し(中盤で36角、26角、44角と延べ3回の角打ちが味のある、あるいは含みのあるプロらしい手と感じました)で、90手目にはそれまで窮屈な動きをしていた飛車までが53飛と世の中に晴れて出るなどして146手で今期初勝利をあげることができました。これを契機に勝利を積み重ねる秋の涼風が吹いてほしいものです。


 少し、実戦を振り返ってみましょう。

 上記の途中図、27手目23角の局面では一瞬、序盤早々に決定的な両取りがかかったかとひやりとしますが、51飛で受かっています。この形は先手の超速銀に対して後手が低い陣型から55歩の位を放棄して56歩と軽く捌きにでたことに始まります。そこで、先手は角交換から3筋、2筋の歩を突き捨てて23角を実現します。ここらあたりは、居飛車側の作戦の選択権の範疇にあり、馬対持ち角の対抗形ともいえます。アマの場合、持ち角より馬を作ったほうが若干、有利に感じられますが、プロの眼からみると互角なのでしょう。実戦例は意外に少なく、10局余しかありません。
 本局を振り返ると、蟄居していた14金までが25金と35角の援護に一役買うなど序盤駒組における左辺の飛角金銀桂が結果的にきれいに捌ききったともいえるし、勝ち将棋とはそんなものかもしれません。
深浦vs久保.kif 直


 最後にA級順位戦を少し展望してみましょう。
まず、郷田王将と広瀬八段が三連敗と意外な展開です。
連勝スタートの佐藤八段、行方八段、渡辺棋王の三人が近々、星のつぶし合いをしますので、これらによってダンゴレースとなるか、それともこの中よりいずれかが挑戦者レースを大きく牽引していくことになるかもしれません。
 いずれにしても、A級にかぎらず、棋士の真剣勝負がこの秋から冬へと展開されていくことでしょう。