ストンリバーの日記

「詰将棋パラダイス」同人作家が語る将棋一般ブログ

倉敷藤花戦

 地方におけるタイトル戦開催については、その熱心さの度合いにはかなりの温度差がある。
その中でも大山名人の生誕地でもある岡山はぴか一ではないかと思う。
大盤解説会などは会場借り上げ料の名目で入場料を徴収するケースが多いのだが、ここ倉敷では入場料を徴収された記憶がない。また、前夜祭の費用負担なども破格の安さだ。
 そして、主催(共催)する首長の熱心さにも注目している。岡山県知事や倉敷市長など、代理を立てた挨拶などにお目にかかったことがない。
いつぞや、菅井王位の六段昇段時の祝賀会に参加したことがあるのだが、その席にも岡山県知事が来ていた。こういった会にもお祝いにかけつけてくるのかと外野席の一員ながら、まさに敬服の至りだった。
 さらに、山陽新聞社の後援ぶりもすばらしい。
岡山県下の開催されるタイトル戦等は一面にその内容が掲載されるなど将棋そのものの取扱いも大きい。
また、一年を通して、日々の将棋欄には二つの棋譜が常に載っている。一つは「棋王戦」で、もう一つは「倉敷藤花戦orアマ将棋」である。
これには将棋フアンの一人として実にうらやましいの一言である。
倉敷市に対しては見返りなんていらないから「ふるさと納税」をしたいくらいである。住んでみたい地方都市はと問われたら、岡山は私の中では間違いなく五本の指のうちに入るだろう。


さて、第25期倉敷藤花戦第2局が11月26日に開催された(公開対局&大盤解説会)。
第1局は相振りの戦いで伊藤女流二段に十二分に勝機があったと思われたのに負けてしまった。尾を引いていなければいいがと思いつつ、今回も相振りの熱戦を期待しての倉敷入りである。
 ところが戦型の方は序盤早々、相振り模様の出だしだったにもかかわらず、先手の里見藤花が居飛車を選択してしまった。すでに後手は22飛車と向かい飛車にしてあったので戻しようもない。先手が注文をつけたような感じだが、後手の得意戦法である相振りをさけたようにしか見えなかった。もっと、はっきり云えば先手がそれを嫌がったのであろう。
 将棋は121手で先手が勝って、里見5冠はタイトルを防衛した。これで倉敷藤花は通算8期のタイトル保持となった。
終局後の感想戦で、伊藤さんは「対抗型の振り飛車側をもって指したのは二人の対局では初めてでした。新鮮な感じがして楽しく指せました」みたいなことを云っていたが、内心は不慣れな指しまわしでそれどころではなかったであろう。この二人の対局は春の女流王位戦を皮切りに、女流王将戦、今回の倉敷藤花戦を経て、近いうちに女流名人戦でもあいまみえることになっている。来る女流名人戦5番勝負では「相振りはどちらがうまいか」のシリーズになってほしいものだ。伊藤さんの独特の相振りの戦い方に魅せられている私は率直にそう思う。

将棋の日IN関西

 よく関西方面へ旅するなかで、自らの体験を経て大阪の七不思議とも云えるものがある。
その一つが道路である。大阪では南北に走る道路を「△△筋」といい、東西に走るそれを「△△通り」という。前者には御堂筋、堺筋松屋筋などがあり、後者には千日前通り、中央大通り、本町通りなどがある。
 全てを確認した訳ではないが、南北の幹線道路が一方通行となっている。例えば、御堂筋ではゆうに6車線はあろうかと思う大きな道路が北から南への一方通行なのである。初めて目の当たりにしたときは<なんとまあ、豪快な使い方よ。さすが大都会の大阪だ>と妙に感心したことを覚えている。
 新幹線で大阪に着く。地下鉄御堂筋線で「新大阪」から「心斎橋」へ直行することが多い。いつもと違う出口から地上に出たときに、自分の位置情報を見失うことがある。そういったときは御堂筋をながめて、車の流れを確認する。そして、車の流れに沿って歩けば難波方面へ行くことができるのを確認するのだ。このシステムはひよっとしたら旅人のためにあるのではないかとさえ思えてくる。おそらく、大阪で生活している人にとっては何か不都合な点があるのではないかと思うのだが、大阪の人に直接、尋ねたことはない。


 さて、11月23日に関西将棋会館で「第43回将棋の日in関西」が開催された。11月の「将棋の日」の関連行事は全国を巡回するイベントが有名だが、この日・この種のミニイベントはわざわざ九州から見に行くことでもなさそうだ。しかしながら、今回のメインのプログラムに「菅井王位vs稲葉八段」の公開対局があったので、訪れる気になった。

 菅井王位はタイトル獲得後、成績のほうが今ひとつスッキリしない。おそらく祝賀会などに振り回されて生活や勝負のリズムが乱されているのではないかと懸念するところだ。でもそのうち、従前の勝負勘をとり戻してくれるに違いないと期待している。
対局は先手・稲葉八段、後手菅井王位で始まった。注目の後手の作戦は期待通りの振り飛車(ごきげん中飛車)。
序盤の途中図は後手が22手目、42銀を31銀と引いたところである。手損であるが、こういう自由奔放とも思える斬新な指し手が彼の棋風でもある。将棋は中盤に後手が74手目、28角から19角成と香車を拾ったあたりでは後手指せるのではないかと思っていたが123手で先手が勝利した。
全般的な内容として、振り飛車の左側の金銀が捌きながら中央に盛り上がってくれたし、白熱した内容で十分満足した。

稲葉陽vs菅井竜也.kif 直

菅井ノート相振り編

 待望の一冊が出た。満を持して書いたのごとき一冊である。
前3冊(後手編、先手編、実戦編)は2012年から2013年にかけて出版された。
その当時、相振りについては若干触れている部分はあったが、ほどなくして本格的な「相振り編」が出るに違いないと思っていた。だが、なかなか実現しない。菅井王位と云えば「中飛車」「3間飛車」「相振り飛車」が3枚看板である。だから、フアンとしてはその一つが欠けたらやはりモヤモヤ感が残り続ける。また、相振りこそ手将棋だから、創造力ある棋風である彼の得意分野だろう。だから書いてもらわなくては困るのだ。それだからこそ冒頭の感想を素直に言えたのである。


 本の中身をのぞいてみよう。
まず、相振りにおける「菅井流」誕生のいきさつ等が書かれている。
この一節を読むと、菅井竜也の真骨頂にふれる思いがする。
将棋と四つに組む気迫、それが感じられるこそ、彼の将棋はワクワクさせるゲームとして読めるのだ。
 次に、「先手56歩からの中飛車vs3間飛車(あるいは向かい飛車)」も詳しく書かれている。
あの王位戦第4局の出だしの将棋である。あれをまともな相振りとして戦い、勝利していたらこの本の評価がアップしたに違いない。しかしながら、王位戦では28飛車と戻す驚愕の一手となったが、あのシリーズ全5局が斬新な手の連続だったから流れとしては仕方がないのかもしれない。
さらに、この本のメインの解説は「向かい飛車vs3間飛車」あるいは「3間飛車vs向かい飛車」である。プロアマを問わず、この戦型のパターンが多いからである。


 ゴルフや卓球の選手が玉を扱うように、菅井竜也というスペシャリストは駒の特性や組み合わせの妙を取り扱う。そこには熟慮からくる確実さとさばきの軽妙さがある。この本を読みこなすにさほどの難しさはない。王位戦に関するコラムもちりばめながら軽いタッチで読者に近づいてくれる。それを思うだけでこちらの人生も少し軽くなるような感じなのだ。なお、全4巻そろって眺めると菅井将棋の理解がさらに進むに違いない。

待ちに待ちたるタイトル獲得

 遠い昔の子供のころ、運動会で全学年児童で準備体操とともに運動会の歌をうたったものだ。
「待ちに待ちたる運動会♪♪・・」という歌詞で始まるこの歌を妙に覚えている。
快晴の秋空のもと、自分がどんな走り方をしたかなど一切覚えていないのに、奇妙にこの歌が記憶の底にあるのはきっと「楽しい一日の思い出」として残る年が多かったのだろう。


 久保利明九段が王将・棋王の二冠のタイトルを持っていたころ、次に、タイトルが狙える振り飛車党の棋士は誰だろうとよく思ったものだ。
その頃の菅井王位は五段で大和証券杯で優勝するなど好成績をあげ始めていた。
そして、タイトル挑戦に近づいたのが2年前の王位戦であったが、惜しくも挑戦者決定戦で敗れてしまった。そういった苦い経験があればこそ、フアンとしては「待ちに待ちたるタイトル獲得」という思いに至るのである。


さて、第58期王位就位式が11月9日に東京で開催され、その後地元の岡山市で竜棋会、山陽新聞社などの主催で祝賀会が行われる予定である。
実はその前の10月22日にはいち早く倉敷市でも倉敷市長、大山名人記念館長などが発起人となって祝賀会が開催された。
「待ちに待ちきれない?」私はそちらの祝賀会へいち早く参加した。会場は倉敷国際ホテルで午後5時開演。
お祝いにかけつけた人たちは約、150人。祝賀会は楽しい雰囲気の中、式次第にしたがって進行した。
来賓代表として(彼の師匠としても)挨拶に立った井上慶太九段の話しも時折、感極まる場面も交えながら、こういう祝い事は年に二、三回あっても良いと結んだ。謝辞に立った菅井王位はこれまで以上に将棋に対する思いと決意を力強く述べた。やはり、「地位は人を育てる」という好例だろう。
祝宴のなかばに、菅井王位を語ると題して稲葉陽八段と船江恒平六段によるトークは菅井王位の人となりが伝わってきて良かった。加えて、彼が子供のころから親交があった今泉健司四段との対談もエピソード風で面白かった。

人生には今日のように晴れ晴れとした時間が用意されているから素晴らしいと思う。このような個人的歴史の一コマに立ち会えて私はなんとなく幸せな気分だった。会場の外は折しも大型の台風21号による風雨が激しかったが、新王位の大いなる精進と成果を今後期待して会場を去った。

どちらがでてきても倉敷で相振りを!

 9月25日は第24期倉敷藤花戦の挑戦者を決める大一番の日。
甲斐智美女流5段vs伊藤沙恵女流2段の決定戦である。
甲斐さんだと里見5冠とはこれまで数多くの女流タイトルを競った仲である。
伊藤さんだと今春の女流王位戦に続くカードで相振りが期待できる。
 指してる当事者は真剣だろうが、こちらとしてはこれほど気楽に観戦できる対局はめったにない。
なんとなれば、どちらがでてきても、振り飛車の面白い将棋が期待できるからだ。
 AbemaTVでも新4段ばかり追いかけるのではなくて、たまには女流の世界にもスポットをあててもらいたいものだが、本日はパソコンのネット棋譜中継を静かに見る。


 さて、本譜は振り駒で先手が甲斐さんとなり、戦型は意外や相居飛車戦となった。これは伊藤さんが相手が居飛車なら自分も居飛車、相手が振るなら、相振りにするという独特の棋風のためだ。すなわち、甲斐さんが相振りをさけたとしか思えない。
矢倉の戦型から46手目後手が65歩と開戦した。これに対して先手は75歩と切り返す。後手はこれを同歩と応じてから一気に激しい攻め合いとなった。65手目77同玉と入玉模様に上がられてからどうなるかと思っていたら55歩以下、うまく手をつないだ。およそ手順にゆるみがない、最善手の連続のような後手の攻めは細いながらさすがと思わせられる。
 しかしながら、73手目先手が83桂と辛抱してから、局面があやしくもつれ始めた。それからの攻防は後手が110手目75角と打ったあたりでは後手に勝機がおとずれてしまった。118手で後手の勝ち。甲斐さんの敗因は相振り飛車を避けたことにあるのではないか。甲斐さんは居飛車よりも振り飛車の方をうまく指されるのでそう思われるゆえんである。

 伊藤さんの将棋はみていて面白い。独特の伊藤ワールドを展開してくれるからだ。
例えが適切かどうかわからないが、始球式で稲村亜美の投げるあざやかなボールを見る思いがする。華がある。魅せられる。おお、やるなと思わせられるのだ。
 里見5冠との3番勝負が楽しみだ。戦型はもちろん、相振りを期待する。
今年も行きます、倉敷公開対局(11月26日)。

菅井新王位誕生

 なべて世の中のことは一色に染まってはいけない。
プロ棋界で圧倒的に居飛車党が幅を利かす中にあって、振り飛車のこれまでの指し方に新たな可能性を求める気概を持った棋士がそれもタイトル戦という晴れの舞台で全局やってのけたというのが驚きを通り越して感動すら覚えるのだ。
 菅井七段といえばプロ入り後、「ごきげん中飛車」「石田流三間飛車」「相振り飛車」という三つの得意戦法を主体に好成績をあげてきたが、それらをことごとく封印しての戦いぶりに観ていてハラハラしながらも、その一手一手に惹きつけられたのである。


 5局を簡単にふりかえってみると、
第1局から第3局までの序盤の駒運びは首尾一貫している。
まず、飛車を早々に三間に振る。次に、自ら角交換をする。そして、向い飛車に振り直すという実にわかりやすい指し回しである。
この三番を2勝1敗でのりきったことが大きかった。
第4局だが、先手の彼は56歩から振り飛車を目指したが、羽生王位は32飛と相振り模様に誘った。7月27日付のブログで相振りも1局ぐらい見てみたいと書いているが、ここでも先手はあえて相振りを避けて28飛と「居飛車vs振り飛車対抗型」に戻したのも驚愕の一手だった。
続いて、最終局の第5局だが後手番の彼は32金から33角と指したので一見、「坂田流向い飛車」かと思ったがここでも32飛だった。この1局は飛金の捌き方が見どころだった。


 羽生王位のターニングポイントは第4局で相振り模様に誘った変化球だったのではないか。羽生さんはこれまで相手の得意戦法をことごとく打ち負かして羽生ワールドを作り出してきた。第1局から第3局の戦法の決着をつけるシリーズになってほしかった気も少しする。


 竜棋会を始めとして、岡山県下の将棋フアンも大喜びであることだろう。早晩、祝賀会が開催されるに違いない。私も竜棋会の一員であるので、できたらその「喜びの輪」に加わりたいものである。

第59回九州G例会

日時:平成29年8月20日(日)
場所:博多市民センター


1 参加者:石川、太田、倉掛、古森、小池、坂田、酒井、千々岩、広瀬、堀切、八尋(以上11名)
 二ケタの参加者で盛況だった。初参加が二人いる。
まず、小池氏は横浜市からの参加で、関東からの客員は平成26年夏の利波氏以来となる。
 ゆっくり、お話ししたかったが一次会で失礼されたのでそれが少し残念でした。
次に、広瀬氏は大阪での創棋会でお会いしたこともある方で、この春に京都より福岡市に転勤してこられた。
 実は京都にはもう一人よく存じ上げている廣瀬氏という方がいらしゃって、お仕事の関連で現在福岡市に居住されている(今回の例会に出席はかなわなかったが・・・)。かってに、ダブル・ヒロセと呼ばせていただければ、このお二人の九州への参入は九Gにとってもなにか新鮮な風が舞い込んできた雰囲気であり、今後の九Gにとって良い刺激となりその活性化に大いに期待したいところである。


2 課題作(スイッチバック)は4作品集まりました。
 いずれも水準作の出来栄えでこれがスンナリ九G作品展に採用されるようです。
私も解図してみましたが、特に広瀬氏の作品が攻め方四枚の銀がテーマに忠実に舞ってみせる内容で感心いたしました。
どこか、中国雑技団の一輪車の複数芸をみているような感じを受けました(長崎ランタンフエステイバルの影響です)。


3 九Gの例会月について
 九Gの活動は年に2回で1月と8月で決まっています。
いわゆる、「正月とお盆」という1年で一番、人の動きが激しい時期と季節の極端な洗礼を受ける時期でもあります。
 近年、年を重ねるにつけて、この時期に動き廻ることが苦痛に思えるときがあります。以前より、もう少しやさしい季節に変更できないかと思うことがあります。例会時に希望的意見を述べさせていただいたことがありますが、賛同してくださる方は一人もいませんでした。個人的見解を押し付けることはよくありませんので、あきらめることにしました。
 

4 次回「課題」と結果原稿作成者は、酒井氏が広瀬氏と調整されるようです。
5 次回開催日は平成30年1月14日(日)です。
 第一候補は7日でしたが、私よりお願いして1週ずらしてもらいました。

6 二次会はいつもの居酒屋がお休みでしたので、博多駅近くの全国チェーン店の居酒屋へ10人で行きました。
 急な飛び込みの影響か料理がはこばれるのが最初のうち遅かったのですが、その分みんなの会話も弾んだようです。