ストンリバーの日記

「詰将棋パラダイス」同人作家が語る将棋一般ブログ

菅井ノート相振り編

 待望の一冊が出た。満を持して書いたのごとき一冊である。
前3冊(後手編、先手編、実戦編)は2012年から2013年にかけて出版された。
その当時、相振りについては若干触れている部分はあったが、ほどなくして本格的な「相振り編」が出るに違いないと思っていた。だが、なかなか実現しない。菅井王位と云えば「中飛車」「3間飛車」「相振り飛車」が3枚看板である。だから、フアンとしてはその一つが欠けたらやはりモヤモヤ感が残り続ける。また、相振りこそ手将棋だから、創造力ある棋風である彼の得意分野だろう。だから書いてもらわなくては困るのだ。それだからこそ冒頭の感想を素直に言えたのである。


 本の中身をのぞいてみよう。
まず、相振りにおける「菅井流」誕生のいきさつ等が書かれている。
この一節を読むと、菅井竜也の真骨頂にふれる思いがする。
将棋と四つに組む気迫、それが感じられるこそ、彼の将棋はワクワクさせるゲームとして読めるのだ。
 次に、「先手56歩からの中飛車vs3間飛車(あるいは向かい飛車)」も詳しく書かれている。
あの王位戦第4局の出だしの将棋である。あれをまともな相振りとして戦い、勝利していたらこの本の評価がアップしたに違いない。しかしながら、王位戦では28飛車と戻す驚愕の一手となったが、あのシリーズ全5局が斬新な手の連続だったから流れとしては仕方がないのかもしれない。
さらに、この本のメインの解説は「向かい飛車vs3間飛車」あるいは「3間飛車vs向かい飛車」である。プロアマを問わず、この戦型のパターンが多いからである。


 ゴルフや卓球の選手が玉を扱うように、菅井竜也というスペシャリストは駒の特性や組み合わせの妙を取り扱う。そこには熟慮からくる確実さとさばきの軽妙さがある。この本を読みこなすにさほどの難しさはない。王位戦に関するコラムもちりばめながら軽いタッチで読者に近づいてくれる。それを思うだけでこちらの人生も少し軽くなるような感じなのだ。なお、全4巻そろって眺めると菅井将棋の理解がさらに進むに違いない。