ストンリバーの日記

「詰将棋パラダイス」同人作家が語る将棋一般ブログ

武市三郎六段の引退

 将棋世界4月号に「盤上盤外一手有情」という田丸九段の記事がある。そこに今月(3月)末に60歳となり、フリークラス規定によって引退が決まっている武市六段が登場している。

 フリークラスの棋士は2種類あり、一つは順位戦C2で降級点を3回取って、このクラスに「降級」すると60歳で引退となる。もう一つは落ちる前にこのクラスに「転出」すると、65歳まで現役を続けられる。武市六段は前者のタイプだった。

 田丸九段が「C2で降級する前にフリークラスに転出していたら、現役をあと5年間は続けられた。なぜそうしなかったのか・・」と彼に聞いたそうだ。

 すると、彼は「5年間は現実的に大きいと思います。でも、私は、勝負できるうちは戦いたかったんです。ぴりぴりした雰囲気の順位戦の対局を指さないと、棋士の魂が抜けてしまうような気がしました。それに奨励会時代の多くの仲間が三段でやめていったことを思うと、あと何年で引退なんてどうでもいいことでした」と答えている。

 私自身、若いころより凛とした精神を持って人生を歩んで行きたいとしてきた人間にとって、何の世界であれ、このような勝負師としての誇りと男の引き際の大切さをあらためて思い知らされることには実に心打たれるものがある。彼の将棋は武市流筋違い角とか力戦振り飛車で私にとっても注目してきた個性派の棋士であった。今後も、将棋の普及を始めとしたご活躍を期待したいものである。