ストンリバーの日記

「詰将棋パラダイス」同人作家が語る将棋一般ブログ

人間将棋  姫路の陣

 人間将棋といえば、将棋フアンならまず天童市のそれを思い浮かべるだろう。
春の桜まつりの一環として開催されるこのイベントの始まりは昭和30年代と歴史も古く、その日、夕方のTVニュースで放映されるたびに、いつかは行ってみたいものだと思っているがいまだに実現していない。
 西日本でも昨年から姫路市で行われるようになった。
舞台は姫路城。甲冑など戦国衣装に扮した人間駒が躍動するのだから、お城というこれほどふさわしい舞台設定もないであろう。
 昨年の姫路城大天守・再公開を記念して始まったのが真意だそうだ。黒田官兵衛がブームとなったことも追い風になったことと思われるが、歴史上の人物を長く記憶にとどめるべく、今年も来年もと開催の歴史を築きあげていただきたいものである。
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 さて、11月5日と6日の2日間、三の丸広場を中心に人間将棋に限らず、トークショウ、ゲスト対局、子供将棋大会、指導対局など多彩なイベント内容となっていた。
 そのメインの人間将棋の対局者は初日が北村桂香女流初段vs山口絵美菜女流1級、二日目が糸谷哲郎八段vs稲葉陽八段である。
 駒に扮した人間の動きを俯瞰的にではなく、横からながめる形になるためにその動きだけで理解できるわけではない。大型スクリーンや大盤解説棋譜読み上げの音声の助けでリアルタイムの棋譜を理解していくことになっていた。
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 この人間将棋には一つの取り決めがあった。駒に扮した人たちが一度も動くことなく、対局が終了することはしのびないということで最低1回は動いてもらうということにある。そのために、棋譜をみたときに少々理解に苦しむ指し手(意味不明に近い緩手)が登場し、その指し手に対して相手も同じように応じているのも一種の愛嬌というものである。
初日の人間将棋は先手居飛車vs後手四間飛車の対抗型となったが終始押し気味の先手・山口絵美菜1級が123手で勝った。
山口vs北村.kif 直

 初日に登場した棋士6名がそれぞれ詰将棋を出題されていた。
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次に、2日目の対局者は糸谷哲郎八段vs稲葉陽八段である。将棋は先手の稲葉八段が56歩以下中飛車を披露してくれた。振り飛車戦の方がお互いの駒がすべて動きやすいという配慮だったかもしれないが、振り飛車フアンにとってはありがたいことである。終盤は1筋・2筋の手に汗握る玉頭戦となって、実にスリリングで見ごたえがあり、変化に逆王手の含みもあり、解説をされていた神吉七段がまた、適任者でもあった。将棋は133手で稲葉八段が勝った。
稲葉vs糸谷.kif 直

 二日目に登場した棋士6名がそれぞれ詰将棋を出題されていた。
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詰将棋は2日間で延べ12作品が出題された。いずれも短手数で易しい作品ばかりであった。少し長めか、少々骨っぽい作品を1題出すよりは、このやり方が詰将棋なれしていない人をひきつけやすくて、詰将棋の普及という面からは大いに歓迎したい。
詰将棋の正解解答者より1名にそれぞれの棋士による「色紙」が抽選プレゼントされたが、私は幸運にも稲葉八段(彼はいまや勢いのあるA級棋士)のそれを頂戴できて素直にうれしい。来年の詰将棋解答選手権の景品にしたいと思っている。

 二日間、入場して気になったことが1点ある。
それはメインイベント(人間将棋)の前に、初日は谷川九段vs伊藤かりん、二日目に東八段vs子供将棋大会の優勝者のそれぞれの駒落ち指導将棋の公開対局がなされたときのことである。
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 大盤操作盤面で先手側に上手を配し、後手側に下手を配したことである。いくら駒落ち将棋では上手が先に指すとはいえ、盤面では逆であろう。これでは棋譜読み上げと大盤操作がチグハグになってしまうからだ。実際、解説にあたるプロ棋士は器用にこなしていたものの、多くの将棋フアンは面食らっていたに違いない。この状態で二日間とも行っていた運営側の無神経さが少々気になって仕方がなかった。


 さて、今回初めて「人間将棋」というものを拝見した。姫路城をまじかに眺めながら、三の丸広場で実にゆったりした気持ちでしばし将棋にふれていたことに価値があったように思われる。冒頭にもいったように、毎年開催の実績を積み上げていってほしいものである。