ストンリバーの日記

「詰将棋パラダイス」同人作家が語る将棋一般ブログ

弟子(9歳)の師匠はドラゴンキング(16歳)

白鳥士郎 著 「りゅうおうのおしごと」 (GA文庫

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 王座戦第2局の大盤解説会場(大阪)へ行った時のことである。
西遊棋の面々がこの本のPRをしていた。
文庫本の表紙をかざしながら、西遊棋が監修をおこなったことを述べていた。
本を見開きにしてくれなかったので、表紙のイメージから中身は劇画かなと思ったりしていた。
帰りに大阪梅田の本屋に立ち寄った。
中身はライトノベルである。本の帯には竹内雄悟4段がコメントを寄せていた。
ライトノベルだけに軽いノリで、帰りの新幹線で読もうかと思い買い求めた。
GA文庫とは聞きなれい名称だったが、すでに10年のキャリアを持つそうだ。発行元がソフトバンクの関連会社みたいだが、なぜSB文庫としなかったのかと思ったりしたが、これもGAの意味が分からないからで、そのうち分かることがあるかもしれないのであまり深く考えないことにしよう。


 16歳で「竜王」のタイトルをとった主人公のもとへ、9歳の小学校3年生の女の子が弟子となるべく押しかけたところから物語は始まる。中学生棋士になった主人公がいきなり竜王戦ドリームを実現してしまった設定であり、当然順位戦の位置はまだC2組である。こういったことはアマ竜王になった者がプロ竜王戦に参戦させてもらって、プロ竜王に登りつめることの次に困難なことのように思えるのである。このヒーロー&ヒロインを取り巻く登場人物も若いというか、若すぎる。すべての登場人物たちを10歳嵩上げしてしまいたいくらいだが、実はこうした組み立てだけでも、すでに勝ちポイントを挙げたといってもよいのではないだろうか。意外と面白い。読んでいて気持ちがいい。この心地はどこからくるのだろう。そのひとつは将棋用語等の表現が斬新な感じがするからではないだろうか。私がそう感じた部分をいくつかひろってみよう。

*「居飛車」は細かくて理論的な、血液型で言えばA型な感じ。「振り飛車」はフィーリング重視のB型くんだ。
詰将棋が将棋の実力向上に繋がるのは「詰み」のパターンを体得できるからだ。「この形・・・前に詰将棋でやった形だ!」という進研ゼミ的な感じで役に立つ。
*俺たちは将棋が無いと生きれない。1空気 2将棋 3水 くらいの優先順位だ。
*本物の恩返しはな、師匠に勝つ事なんかやない。師匠が本当に弟子に望むのは、タイトルを獲る事と、新しい弟子を育てる事や。
*「蒼ざめた馬を見よ・・・」角を持ち上げて裏返すと、それを盤面に打ち下ろした。
・・・というようにほんの一例だが、五木寛之の小説のタイトルまで登場したりする将棋の表現にお目にかかった。


 そしてこの本の最大の読みどころは第5譜のヒロインが研修会の入門試験を受けるところにある。確かにこのくだりは、全編の白眉である。実際に読んだ者しか味わえない感動すら覚える部分であろう。
 研修会入会後、ヒロインはどうなるのだろう。気になるところだが、その続編が年明けの1月には出版されるという。しかも、その前に「ヤングガンガン」で漫画化がされるというではないか。もともと漫画的世界観が漂っているので、きっとお似合いだろう。
 この本、本当は最初に劇画〜アニメ〜劇場化という風な(「進撃の巨人」みたいに)手順で進んでも良かったような気もするが、こういう出版形態もありなのだろう。その漫画化が好評を博すると「3月のライオン」みたいにメジャーになるかも知れない。続編への期待感とともに、なんとなくそう思う。将棋フアンが増える要素が多分にあるので、そう予感できるのである。