先手中飛車<角交換型>については、先のブログ(2013年6月18日付)で菅井竜也五段の勝局集を10数局紹介したところである。
先手中飛車<角交換型>は私の収集している棋譜データの中には約150局ほどあり、同じく後手中飛車<角交換型>はその約2倍の300局近くある。
今回は先手中飛車の手数が若い順に百局を選んで、そのデータ分析をおこなってみた。
<対局者別>
近藤正和六段が16局、鈴木大介八段が11局、菅井竜也五段が9局、久保利明九段と佐々木慎六段がともに7局である。
やはり、ごきげん中飛車の創始者である近藤六段の対局数が群を抜いている。次に、振り飛車党である鈴木八段や久保九段が多いのは納得できるが、特に注目したいのは菅井五段の9局である。プロ棋士になってからまだキャリアが浅いなかにあって、この対局数は彼が如何に勝率抜群で勝ちまくっているかである。その証左に公式戦100勝到達のスピード記録が歴代4位(136局で100勝36敗の0.735)である。
<戦型別>
後手の右銀の動きが駒組の頂点近くでどの位置にあるかで判断してみた。
64銀型:47局 63銀型:14局 44銀右型:13局 53銀型:10局
64銀型が圧倒的に多いのは5,6,7筋へ機敏に対応できる位置であることからすると、十分納得できることである。
<どちらから角交換>
先手から角交換をしたのが38局であった。それから先手が中飛車を明示した後に、ほどなくして88飛と向飛車に振り直す指し方があるがこれが百局中12局であった。両者ともにやや少ないと云う印象をもった。それはどうせ先手で飛車が振れるなら、自ら角交換しても、又飛車を振り直してもあまり苦にならないのではないかと思うからである。
<百局中、私的に選んだ10局を紹介>
途中図は戦型でいえば、後手63銀型である。41手目54飛が角銀交換をおそれない強気の攻めである。以下、4,5筋に垂れ歩の拠点を築き、最後53歩成、43歩成と成捨てたあたりは指がしなるような決め方であった。43同玉は54銀以下ボロボロだし、43同金は53飛成以下、55角の王手飛車が待っている。
▲66歩 ▽45歩 ▲65歩 ▽54歩 ▲64歩 ▽同銀 ▲63角 ▽52角 ▲54飛 ▽63角 ▲64飛 ▽72角引
▲63銀 ▽94角上 ▲44歩 ▽52銀 ▲同銀成▽同金寄 ▲43銀 ▽22玉 ▲54歩 ▽63歩 ▲66飛 ▽55角
▲56飛 ▽44角 ▲34銀成▽71角 ▲44歩 ▽33銀 ▲同成銀▽同玉 ▲53歩成▽同角 ▲43歩成
まで67手で先手勝ち
途中図は64銀型である。先手は左側の金銀をうまく捌いた。特に飛車を5筋に誘い込み、77手目35銀の捌きは潜在的王手飛車の筋があり、先手一本採った感じがする。以下、5,6筋からの攻めも決まった。
▲65歩 ▽53銀 ▲55歩 ▽同歩 ▲同飛 ▽54歩 ▲59飛 ▽52金上 ▲58金左▽43金右 ▲89飛 ▽74歩
▲57銀 ▽75歩 ▲同歩 ▽45歩 ▲74歩 ▽84飛 ▲66角 ▽74飛 ▲75歩 ▽71飛 ▲11角成▽33桂
▲13香 ▽46歩 ▲64歩 ▽同歩 ▲69飛 ▽76歩 ▲85桂 ▽75飛 ▲86歩 ▽84歩 ▲12香成▽85歩
▲55歩 ▽同飛 ▲65歩 ▽77歩成 ▲46銀 ▽56飛 ▲35銀 ▽52金 ▲47金 ▽86飛 ▲64歩 ▽68歩
▲63歩成▽同金 ▲34銀 ▽同金 ▲52銀 まで87手で先手勝ち
今回の百局の中に佐藤九段を始め、大山名人など古い時代の人の棋譜が5局入り込んだ。このことからしても分かるようにこの先手中飛車の角交換型は従前より時折見かける指し方であった。本局では69角と手筋の割打ちを喰らい、後手の飛の侵入を許したが2枚角による左右上下の挟撃体制が見事にきまった一局である。
▲45歩 ▽33銀 ▲38金 ▽52飛 ▲55歩 ▽62金 ▲66銀 ▽53金右 ▲75歩 ▽86歩 ▲同歩 ▽82飛
▲78金 ▽86飛 ▲87歩 ▽82飛 ▲74歩 ▽58歩 ▲同飛 ▽69角 ▲68飛 ▽78角成 ▲同飛 ▽87飛成
▲77飛 ▽89龍 ▲73歩成▽76歩 ▲同飛 ▽85金 ▲63と ▽76金 ▲53と ▽同金 ▲54歩 ▽52金
▲74角 ▽51金 ▲53歩成▽59飛 ▲41銀 ▽同金 ▲43と ▽同玉 ▲41角成▽52歩 ▲42金 ▽54玉
▲72角 ▽63銀 ▲55歩 ▽53玉 ▲52金 まで87手で先手勝ち
私の好きな棋士の一人である久保九段の将棋を一局いれておこう。戦型は64銀型。まだ駒組は続くと思われていた矢先に後手は先手が銀冠に組み替えようとした金銀が離れた時をねらって9筋の端から開戦となった。桂香交換の互角の分かれとみていたが先手は2筋に26香と拠点を据えて玉頭から攻略してしまった。
▲89飛 ▽73桂 ▲36歩 ▽43銀 ▲26歩 ▽52金 ▲37桂 ▽42金右 ▲27銀 ▽94歩 ▲96歩 ▽95歩
▲同歩 ▽75歩 ▲同歩 ▽95香 ▲同香 ▽76歩 ▲38金 ▽77歩成 ▲同金 ▽65桂 ▲78金 ▽86歩
▲同歩 ▽98角 ▲88飛 ▽76角成 ▲25歩 ▽33金右 ▲26香 ▽86飛 ▲同飛 ▽同馬 ▲24歩 ▽同歩
▲25歩 ▽58飛 ▲24歩 ▽78飛成 ▲41飛 ▽59馬 ▲31角 ▽同金 ▲23歩成▽同金 ▲同香成▽同玉
▲43飛成▽33桂 ▲24歩 ▽同玉 ▲25銀 ▽23玉 ▲34銀 ▽12玉 ▲23金 ▽21玉 ▲22歩
まで91手で先手勝ち
久保vs日浦.kif
戦型は44銀右型。先手陣、木村美濃に組み替えているが、玉頭に2枚の歩が伸びてきて、それを2枚の銀が支えている。先手はここで85桂とポンと跳ねる作戦に出る。ときおりお目にかかる振り飛車側の常套手段である。狙いは同飛と取らせることにより、突き歩で逆襲したり、96角などが決め手になることもある。
▲85桂 ▽同飛 ▲86歩 ▽82飛 ▲85歩 ▽26歩 ▲同歩 ▽33銀 ▲84歩 ▽44歩 ▲75角 ▽64桂
▲83歩成▽42飛 ▲57銀 ▽45歩 ▲72と ▽55歩 ▲同歩 ▽74歩 ▲66角 ▽72金 ▲54歩 ▽56歩
▲同銀右▽同桂 ▲同銀 ▽46歩 ▲53歩成▽41飛 ▲43歩 ▽47銀 ▲同銀 ▽同歩成 ▲同金 ▽46歩
▲同金 ▽64角 ▲42歩成▽46角 ▲41と ▽36歩 ▲42と引▽37歩成 ▲同桂 ▽36銀 ▲32と ▽13玉
▲22銀 ▽同銀 ▲同角成▽24玉 ▲25銀 まで91手で先手勝ち
戦型は44銀右型。74歩と82飛のコビンが開いた瞬間、46角以下先手は果敢に攻める。途中、69銀と手筋の割打ちにあうも、寄せきってしまう。良く云われる窪田ワールドの世界であろう。
▲46角 ▽64角 ▲55歩 ▽同歩 ▲同銀 ▽同銀 ▲同角 ▽58歩 ▲同飛 ▽69銀 ▲64角 ▽同歩
▲68飛 ▽78銀成 ▲同飛 ▽89角 ▲68飛 ▽86歩 ▲91角 ▽72飛 ▲35角成▽87歩成 ▲61銀 ▽62飛
▲52銀成▽同飛 ▲53歩 ▽82飛 ▲83歩 ▽同飛 ▲52金 ▽31金 ▲58飛 ▽56歩 ▲84歩 ▽同飛
▲56飛 ▽67角成 ▲57飛 ▽同馬 ▲同馬 ▽82飛 ▲83歩 ▽同飛 ▲61角 ▽86飛 ▲42金 ▽同銀
▲52歩成▽71金 ▲66馬 ▽33歩 ▲42と ▽同金 ▲43角成▽同金 ▲52銀 まで91手で先手勝ち
7 佐々木慎六段vs西尾明六段 棋聖戦
収録局数が多かった佐々木六段の棋譜からは64銀型に対して、77銀を68銀とバックして67銀と一昔前のツノ銀風に組み替えて戦った一局である。
▲68銀 ▽86歩 ▲同歩 ▽同飛 ▲65歩 ▽73銀 ▲87歩 ▽83飛 ▲67銀 ▽42金 ▲77桂 ▽64歩
▲55歩 ▽同歩 ▲同飛 ▽65歩 ▲同飛 ▽62銀 ▲46角 ▽82歩 ▲15歩 ▽同歩 ▲13歩 ▽24銀
▲15香 ▽66歩 ▲24角 ▽67歩成 ▲42角成▽同玉 ▲67金 ▽33桂 ▲12歩成▽54銀 ▲66飛 ▽44角
▲11と ▽87飛成 ▲55歩 ▽同銀 ▲65飛 ▽73桂 ▲55飛 ▽同角 ▲59香 ▽56歩 ▲同香 ▽44角
▲54金 ▽53歩 ▲44金 ▽同歩 ▲17歩 ▽78龍 ▲63歩 ▽89飛 ▲59歩 ▽63銀 ▲31角 ▽同玉
▲53香成▽52金 ▲43銀 ▽42金打 ▲42成香▽同金 ▲53金 まで95手で先手勝ち
若手振り飛車党の戸辺六段もこの百局の中に5局あった。64銀型に対して、53角の打ち込みを助けるかのような銀桂の捌きが光る一局である。
▲36歩 ▽86歩 ▲同歩 ▽75歩 ▲同銀 ▽同銀 ▲同歩 ▽86飛 ▲87歩 ▽82飛 ▲74歩 ▽64銀
▲65銀 ▽55銀 ▲53角 ▽76歩 ▲同銀 ▽64銀 ▲65桂 ▽52飛 ▲73歩成▽53銀 ▲63と ▽42銀
▲52と ▽同金 ▲61飛 ▽45歩 ▲55歩 ▽同歩 ▲81飛成▽24角 ▲35歩 ▽同角 ▲91龍 ▽77歩
▲79金 ▽56歩 ▲37香 ▽57歩成 ▲同飛 ▽46歩 ▲36銀 ▽47歩成 ▲同飛 ▽79角成 ▲44歩 ▽54銀
▲46桂 ▽同馬 ▲同飛 ▽64角 ▲92龍 まで95手で先手勝ち
近藤六段に次いで、収録局数が多かった鈴木八段。数ある中から序盤そうそうに58飛〜88飛と廻り込んで指す一局を紹介したい。
▲55歩 ▽65歩 ▲同桂 ▽同桂 ▲同銀 ▽77角 ▲58飛 ▽55角成 ▲同飛 ▽同歩 ▲73角 ▽92飛
▲55角成▽15歩 ▲同歩 ▽同香 ▲17歩 ▽53金上 ▲73馬 ▽54歩 ▲74銀 ▽64銀 ▲51馬 ▽42金
▲83銀生▽93飛 ▲84馬 ▽59飛 ▲93馬 ▽同香 ▲12飛 ▽43玉 ▲61角 ▽52桂 ▲15飛成▽99飛成
▲39香 ▽59角 ▲58金 ▽77角成 ▲12龍 ▽66歩 ▲同歩 ▽同馬 ▲67歩 ▽27香 ▲同玉 ▽39馬
▲59歩 ▽49馬 ▲21龍 ▽58馬 ▲同銀 ▽59龍 ▲25桂 ▽58龍 ▲23龍 まで99手で先手勝ち
10 武市三郎六段vs大島映二七段 順位戦
独特の指し回しを披露してくれるのが武市六段である。本局でも玉の囲い方もすんなり美濃囲いではなくて48銀から47銀と上がり、48金としまる。飛車の動きも59飛〜29飛と玉頭を場合によっては狙う指し方をする。とにかく武市さんの将棋は盤にならべて味わうしかあるまい。
▲29飛 ▽23金 ▲66歩 ▽32玉 ▲68銀 ▽22金 ▲67銀 ▽23玉 ▲77桂 ▽32金 ▲65歩 ▽74歩
▲25歩 ▽同桂 ▲同桂 ▽42金右 ▲66角 ▽25歩 ▲同飛 ▽24歩 ▲29飛 ▽86歩 ▲同歩 ▽同飛
▲45歩 ▽15歩 ▲同歩 ▽17歩 ▲87歩 ▽82飛 ▲37桂 ▽33金右 ▲44歩 ▽同銀右 ▲45歩 ▽53銀
▲17香 ▽25桂 ▲同桂 ▽同歩 ▲24歩 ▽同玉 ▲26歩 ▽13玉 ▲25歩 ▽23歩 ▲24歩 ▽同歩
▲25歩 ▽46歩 ▲同銀 ▽22玉 ▲47玉 ▽31玉 ▲24歩 ▽28歩 ▲同飛 ▽39角 ▲27飛 ▽25桂
▲同飛 ▽17角成 ▲33角成▽同金 ▲23歩成まで103手で先手勝ち
<最後に>
角交換型の中飛車の好局集はここに紹介した分が当然のことながら全てではない。並べてみて参考になる棋譜はそれこそ沢山ある。角が持駒となっているので、今がはやりの超速銀に見舞われることもない。左側の銀桂をうまく捌くことはもちろんだが、左金の動きも肝心でそれなりの働きをしたときに中飛車側にも勝機が訪れる。軽快な捌きの将棋が好きな棋風にはうってつけの戦法だと思っている。