ストンリバーの日記

「詰将棋パラダイス」同人作家が語る将棋一般ブログ

文藝春秋に羽生名人が登場

 文藝春秋8月号に羽生善治名人のインタビュウ記事が載っている。聞き手はノンフィクション作家の後藤正治氏が務めている。

 9ページにわたるロングインタビュウ記事で中心をなすのは「局面を見極める力」と題して、40代になって、若い頃と比較しての将棋に対する考え方の変遷等が述べられている。後半に「コンピューター将棋の未来」と題しての問答がある。その部分を抜粋して紹介したい。


 
Q:近年com将棋が強くなって、電王戦の結果を受けて将棋フアンの間でも戸惑いがひろがっていますが。
A:基本的にテクノロジーの進歩は止まらないし、影響を受けていくことは間違いないと思います。comの将棋は基本的にあまり一貫性がないんです。その局面で何がいいかを見る。瞬間瞬間に手を選ぶ。前からの手順の流れや構想の中でこうするということがない。形の概念がありません。


Q:かっての升田将棋には盤上この一手、なんとも鮮やかで美しいと感じる手があった。美しさと云うのはcomの価値観にはないですよね。
A:人間の指した将棋とcomが指した将棋は明らかに違う。ただ、美しいというのはとても主観的な話しで、人間の考えることには盲点とか死角というものが必ずあります。思考の中の死角は、それは浮かばないものだから実体的にはどのようなものか分かりませんが、もしかしたら美しいところなのかもしれない・・。


Q:com将棋の棋譜を追っていると、負けない手ばかり選んで指しているように映って何だか腹がたってきますが。
A:実はcom将棋で一番難しいのは「形づくり」だと聞いています。棋士は敗局を自覚した時は美しい投了図を描こうとしますが、棋士自身もどのように形作りをするのか、言語化できません。言語化できないものを数値化して教えるのは、やはり難しいわけです。


Q:この先、ますますcomに勝つことは難しくなるのでしょうか。
A:comに勝つためだけの研究をしたらどうなるか分からない。でもそんな研究は非生産的です。プログラムの穴を探す、いわばバグ取りのような作業になってしまう。将棋をやっていて将棋じゃないような、そういう世界です。しかし現実にはcom将棋の影響はさまざまに現れています。先の電王戦で豊島七段と対戦したYSSの指し回しはとても違和感がありました。最近、プロの実戦の間で少しずつ増えている。評価自体がまだ定まっていません。


*私の感想・・・今年の春の電王戦開催中にもし羽生名人がcomと対戦するためにはかなり長期の対局休場をして臨むみたいなことを言っていたのを思い出した。データの量で質をアップしていくcomが話しのなかで話題になった「美意識」を結果的に表現できるようになったと仮定した場合、そこでは「指し将棋の棋譜の美」それとも「詰将棋の作品の美」のいずれを先に感知するすることになるのであろうか、詰将棋マニアとしては少々、そこが気になりました。