ストンリバーの日記

「詰将棋パラダイス」同人作家が語る将棋一般ブログ

人生を、戦うものたちへ

 標題は3月のライオン第11巻発売記念のキャンペーンポスターのキャッチコピーである。この作品はテレビアニメ化や実写映画化も決定している。


 読書人のための情報マガジンともいえるダ・ヴィンチ12月号が「3月のライオン」の特集を組んでいる。この雑誌を私は定期購読しているが、18ページにわたる特集は破格の取り扱いである。
 最初に、作者である羽海野チカ氏のロングインタビュー(8ページ)を皮切りに、渡辺明棋王森内俊之九段、大崎善生氏(聖の青春の著者)、先崎学九段等のインタビューや「透明の棋士」で話題になった北野新太氏の寄稿文などで構成されている。



 まず、羽海野氏のインタビューより。
*「3月のライオン」は、将棋を職業にした男の子が、そのハードルを一個一個越えて成長していく話。だからもっと“将棋”を描いてくれとお叱りを受けることもあるけれど、描きたいのは将棋そのものじゃないんです。将棋マンガじゃなくて、将棋を職業にした男の子の人生のマンガなんです。

*第1巻から11巻に至る創作秘話みたいな流れになったインタビューであるが、第8巻を描いていたときに東日本大震災が起こった。このときのエピソードに長崎が出てくるから取り上げてみたい。

 ・・・長崎に母と旅行に行ったときも思ったんです。展望台にあがって、あれグラバー邸じゃない?あれは平和祈念像だよねって、二人で見ていたんです。ふと柵をみたら写真が貼ってあって、今は緑いっぱいの場所に<爆心地>と書いてあったんです。こんなに人が住んでいるところに原爆を!なんてことを!と一気にリアルにいろんなものが心に迫ってきて、胸が震えました。震災も、そこで頑張って農業や漁業をやっていた方たちが築いたものを根こそぎ持っていってしまった。想像すればするほど、自分にできることすら考えることが追いつかなくなりそうになって、動揺して手が冷たくなりながら、描いていました。・・・
 

*第10巻で紹介された作中科白がとくに印象にのこった。
 ・・・人生は計り知れない「一寸先は闇」って言葉だけがメジャーだけど、その逆もまた充分起こりうるのだ「3分先は光」みたいに・・・

 「3分先は光」ということは作者が高校時代に思っていたことらしい。この先、良いこともきっとあると希望をもって生きなければ人生はつらいものになってしまいかねないということなのでしょう。


次に、渡辺棋王のインタビューより
*将棋マンガって、どうしてもチェックするような目線で読んでしまうんです。対局の様子とか盤面とか、ちゃんと描けてるみたいな。
*将棋は、努力したら報われるという世界ではありません。結果を出すためにはどれだけやればいいのかわからない。それが勝負の厳しさですね。
*将棋にはプロの技術と研究をもってしても解決しない部分が非常に多くあります。自分にとっては日々、難題を突き付けられている感じ。それが面白さでしょうか。


次に、北野新太氏の寄稿文より
*私が「3月のライオン」を読んで最も心を震わせられるのはあの印象的なモノローグの数々である。あれを読むたびに顔面を殴られるような衝撃を受ける。あれほど痛切かつ正確に将棋界や棋士の真実を捉えた表現など、かってあっただろうかと考えてしまうからだ。
*ずっと、将棋界や棋士たちを描く手段としてフイクッションはノンフイクッションを超えられないのではないかと考えてきた。しかし、「3月のライオン」はフィクッションの魅力を最大限に発揮しながら、将棋界や棋士たちに迫りよる羽海野さんの情熱により、ノンフイクッションでは描き切れなかったものを人々に伝えている。あのモノローグの数々は、もはや架空と現実の垣根を越えた魅力を放っていると思えてならないのである。


最後に、森内九段、大崎善生氏、先崎九段、西川秀明氏等の魅力ある記事の紹介は割愛する。
最先端の「3月のライオン」を理解するには格好の特集記事である。まずは本屋さんでのぞいてみることをお勧めしたい。