ストンリバーの日記

「詰将棋パラダイス」同人作家が語る将棋一般ブログ

「岩手高校将棋部」強さの秘訣

 6月にポプラ新書の新刊として発行されたタイトルが「一点突破」という本(岩手高校将棋部の勝負哲学という副題がついている)がある。その本を実に興味深く購入した。その理由はあとで述べる。

 著者は岩手高校の数学科の教諭で同校囲碁将棋部の顧問の藤原隆史氏で、当該本の最終章で観戦記者の大川慎太郎氏が2013年度全国高等学校総合文化祭・将棋の部の観戦記が搭載されおり、この本はお二人の共著という形式をとっている。

 藤原氏が約20年前に将棋好きな生徒3人と出会い、ほとんどゼロから立ち上げた地方都市の高校の弱小将棋部を独自の方法で強化し、全国屈指の強豪にまで成長させてきた過程を自己流の指導論・勝負哲学をまじえながら語っている。私の言葉は通俗的かつ失礼とは思うが、東北の片田舎にある高校が昨年夏の全国高校将棋選手権・団体の部で3年連続日本一の座を獲得するというのは九州に住む私からすると一種の謎であった。それだけにこの本は冒頭から一気に読破してしまったほどである。

 生徒の個々人が今がはやりのインターネット将棋で棋力を向上させた訳ではない。そこにあるのは指導の原点、特に団体戦における戦術など、将棋教室などで子供さんがたを指導されている方にも一つのヒントになるのではないだろうか。将棋部が大いなる変貌を遂げていく姿は本書を読んでいただくしかないが、その中より特に私が印象に残った表現等を3点ほど紹介したい。

*将棋は理詰めで考える競技だから理系が有利だとイメージされがちだが、我が部で活躍した歴代メンバーを思い浮かべてみても文系・理系は半々だ。瞬時に手を読むときに使う「演算力」は理系寄りの能力かもしれないが、定跡を覚えていないと実戦に対応しづらい点では文系的な「記憶力」が物を言う。将棋が強い人はこの2つの力に加え、未知なる局面での「判断力」、この3拍子が秀でていることが多い。限られた時間の中で何かを選ばなければならないとき、頼りになるのが判断力である。

*<将棋は競馬で、囲碁は野球>
 将棋は「玉」をどちらが先に詰ませるか、「速度」を競う競技、これに対し、囲碁は地合(点数・ポイント)を競っている。そう考えてみると、世の中にある試合や勝負事はすべて速度か点数かどちらかを競っていることに気づく。競馬・競泳・ボブスレーは速度で、野球・サッカー・センター試験などは点数を競っている。よく「囲碁と将棋の違いはなんですか?」と訊ねられることがあると、この種の説明をしている。

*<岩手高校流のセオリー・6つの活動方針>
1 ミーテイングはしない。
2 上下関係は作らない。
3 指さない顧問をつらぬく。
4 ウチに合ったやり方に徹する。
5 中高一貫校の強みを生かす。
6 小口を大切にしない商売は必ず倒れる。


さて、この本の最終章(第4章)に岩手高校将棋部はなぜ強いのかという柱で観戦記者の大川氏が2013年度全国高等学校総合文化祭の観戦記を掲載されている。実はこの年の大会開催県は長崎県で行なわれており、私は同大会の審判の一員として参加した。2日間の大会の模様は私の平成25年7月31日&8月1日付のブログで大会の模様を詳しく掲載している。注目校の岩手高校は順調に勝ち進み、大会2日目に準決勝戦灘高校と決勝戦藤枝明誠高校とそれぞれ対戦した。臨場感あふれる観戦記はこれまた本書を読んでいただくしかないが、私はこの2試合のいずれも大将戦の棋譜を採らせていただいた。その傍ら副将戦・三将戦の模様も伝わってきており、特に決勝戦でのドラマはよく覚えている。表彰式後、賞状等を手にする彼らに私はごく自然に「おめでとう」と声をかけたところ、素直に「ありがとうございます」と大将よりかえってきた。棋譜を二局とったりしたくらいで岩手高校の強さの秘密があの日に分かったわけではないが、今回この本と出合い、かなりの部分を理解できたような気がする。