ストンリバーの日記

「詰将棋パラダイス」同人作家が語る将棋一般ブログ

「勝負心」 渡辺明 著

標題の文春新書が11月下旬に発売される。

それに先立って、文藝春秋12月号にて「新刊を読む」と題して、見開き2ページにて紹介記事が掲載された。ライターは将棋記者の内田晶氏である。

そのさわりの部分をご紹介しよう。

竜王位獲得後の人間的成長

 渡辺竜王は谷川九段や羽生三冠といった優等生タイプとは違って、「ヒール役」「敵役」のような存在。本人も本書の中で「羽生さんのライバルキャラのような立ち位置」と述べている。彼は若手時代から自分の将棋に自信を持つことで、常に強気の発言が目立った。しかし、それも20歳のとき竜王位という将棋界の顔となったことで意識に変化が生じる。すなわち、「竜王」たる棋士として、人間として、どう振る舞うべきか。それまで単に強気なだけに聞こえた発言に、ずしりと重みが加わることになった。そんな彼の成長過程が描かれている。


鴨が「ガアガアと元気に鳴く」

 新潟県南魚沼市にある「龍言」は、野生の鴨が集団で庭にやってくるのが名物の老舗旅館。「ガアガア」という鴨の鳴き声が対局室にまで聞こえるため、旅館のスタッフが対局者が最高の状態で戦ってもらいために、真冬にもかかわらず水に浸かって鴨を追い払ったことがあった。彼は、後にスタッフの苦労話しを耳にして、旅館の心意気に痛く恐縮したという。「自然が発する音にはほとんど気にならない。旅館にも鴨にも罪はありません。」ということで、鴨がガアガアと元気に(うるさくではなくて)鳴くと受け止めたということである。このように、どちらかといえば強気な発言が注目されがちだが、実は繊細で几帳面な性格であり、日頃から周囲にもよく気を遣われる。本書を読んでみるとその思いを強くするにちがいない。


勝負に臨む心構え

 2008年の例の3連敗・4連勝した歴史的大一番など、緊迫した対局の様子をスリリングに描いて紹介している。また、彼にしか書けない「羽生善治論」など、頂点を極めた彼ならではの、勝負に臨む心構えをあますところなく語られた一冊であると内田氏は結んでいる。


私見

 谷川九段や羽生三冠の新書版はそれぞれ数冊発行されているが、渡辺竜王のそれは珍しいのではないだろうか。それだけに、11月下旬の発売が今から楽しみである。