ストンリバーの日記

「詰将棋パラダイス」同人作家が語る将棋一般ブログ

決意と覚悟の自戦記

NHKテレビテキスト 将棋講座11月号 千田翔太五段の自戦記
2回戦第4局 対阿久津主税八段戦


 これまでプロ棋士自身が書いた自戦記は多々あるが、今回の千田五段のそれほど、衝撃的なものはなかった。
今年の将棋ペンクラブの観戦記部門の特別賞に推したいくらいだが、同業者から異論が出る可能性もありそうな内容かも知れないし、本人にとってはそっとしてほしいという思いがあるのかもしれないところだろう。


 まず、書き出しが印象的であるというか、まことに意表をつくものだった。
そして、普通、自戦記というものはプロとしての読みを披露し、感想戦で話題となった部分をポイントとして解説を掘り下げたりするものであるが、将棋ソフトで検証を加えながら、そこで得たものを披露しながら書き進めていることだ。プロとしての矜持は大丈夫なのだろうかとかえってこちらが心配するほどである。
 加えて、最後の圧巻が結びの文章(テキスト4段組みの半分を占める)である。その中より後半のある部分を抜粋して紹介したい。


・・・・・・6月にAperyと1時間の持ち時間で50局以上指し続けた。想定以上に拾って、勝率は2割ちょうどだったが、勝ったのはトン死と相入玉がほとんどで、まともに勝てた棋譜はなかった。現在のコンピューター将棋に勝てなくても、挑まなくてどうするのか。・・・・・・・・


 プロがComとうまく共存しながら、活用していく時代の流れになってきたということは電王戦の結果等からして理解はしていたところだ。
しかし、ここまであからさまに披露していいものであろうかとアマの立場では思った。そして、プロの世界はあくまでも人対人の戦いである。よって、そのあたりともどう折り合いをつけていくかも大切だろう。その点は彼自身が重々承知していることでもある。そういった諸々の点を踏まえても、彼の将棋に対する上昇志向に並々ならぬものが感じられた。だからこそ、今回の自戦記は将棋を生業として生きる者の決意と覚悟をもって書かれたものと言ってよいであろう。何度読んでも胸に迫る一種の力強さがある。